筆跡鑑定とくずし字解読の関係

くずし字の変体仮名や草書のくずし字を読んでいると、書いた人によって、個々にくずし方に違いがあります。一つだけくずし方を覚えたからと言って、そのままほかの人の同じ文字が読めるとは限りません。文章中の同じ筆跡を見つけてその人の書き方の癖を見つけたり、行書に近いくずし方から草書に近いくずし方まで様々な段階のくずしになれたりする必要があります。

しかし、これらの検討が意外と筆跡鑑定に役立っているのです。同じ文字でも書いた時の状況により微妙に変化します。人間はコピー機のように全く同じには書けません。しかも、その人の無意識となった習慣性の筆使いは全部隠すことは至難の業なのです。また書いた時の年齢によっても文字の特徴は変わります。したがって筆跡鑑定ではできるだけ近い時期に書いたものと照合することも大切な要因です。また、病気などの影響でも書き方が変化します。その変化はどういう理由なのか見定めて、その中においても、その人の書き癖を検討していくことが重要になります。

誹謗中傷等の筆跡鑑定も頼まれますが、大体依頼した人が、この人の字ではないかと鑑定の依頼に来ます。日本人は違う人が書いた文字に敏感のようです。

これは最近は書くことが少なくなりましたが、手紙や年賀状などの筆跡を見ると、これは誰さんからの文書と分かりました。

大学に勤務していた時、まだ出席カードの全盛の時代に他人の名前を書いたのを発見した教務部の人もいました。ある大学で講義をする知人も「代筆すると筆跡鑑定の知り合いがいるからすぐわかるよ」と言って、私を出して不正のないよう促したと聞きました。また教員免許講習の試験の時、体調が悪くなり、用紙の半分しかかけていない解答がありましたが、監督者の付箋が貼ってあり、「体調を壊したのでご配慮ください」とそこには書いてありました。その解答の筆跡はギザギザに小刻みに線がぶれていました。体調の悪さを如実に現すのだな筆跡について再度認識させていただきました。